〒カワチ日手紙〒- 外 -

「あえて」以降の、生きる仕方の試みの記録。「父」像、「家族」像への試み。文中に出てくるCは妻で、五部林は息子です。

ロールスロイスと鬼ころし

 藤岡利充監督・映画「立候補」を観た@第七藝術劇場
 笑える映画を期待して観に行ったのに、不覚にも号泣。

 この作品が扱うのは、二〇一一年十一月二十七日、大阪府知事・大阪市長ダブル選挙。
 ぼくも、その府知事選には投票したけれど(もちろん、大阪維新の会の現知事には投票していないし、マック赤坂にも投票していない)、あの二年前の熱狂が嘘のような、あれからまだ二年も経っていない、何かが変わったような、でも、それは知事と市長が代わったからではないような、そして、何も変わっていないような、大阪・淀川区の、ある種大阪を代表する街・十三(じゅうそう)の小さな映画館で、きょう、十人もいない観客といっしょに、この作品を観たことは、ぼくにとって大きい。

 二〇一一年十一月二十六日(投票日前夜)の難波・高島屋前で、橋下徹松井一郎の街頭演説に、そして、二〇一二年十二月十五日(民主党が大敗した衆院選投票日前夜)の秋葉原で、安倍晋三麻生太郎の街頭演説に、一人乗り込むマック赤坂
 その彼に対し、「帰れ!」「売国奴!」と叫び、手を叩く何百、何千人の聴衆たち(秋葉原では、彼らは何本もの日の丸を振り掲げていた)の映像を見て、「ぼくら」はいつからこんな他者を排除する社会になってしまったんだろう、と思い、その罵声を浴びながらロールスロイスマック赤坂の選挙カー)の上に立ち、「鬼ころし」のパック酒をストローで飲むマック赤坂を見て、ぼくはボロボロと泣いた。
 作品を観ながら、以前にも、この居心地の悪さ、後味の悪さを感じたことがあると思っていたら、会場を出た後、それが原一男監督「ゆきゆきて、神軍」のそれだと気づいた。

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 「もしかして狂っているのは、ぼくの方じゃないだろうか?」、奥崎謙三にしても、マック赤坂にしても、羽柴誠三秀吉にしても、彼らを鼻で笑うことは誰にでもできる。ぼくも普段はそうしている。ただ、彼らには、ぼくを立ち止まらせる何かがある。でも、そうしなければ、日常を生きることができない(と勝手に思っている)。


外山恒一の政見放送 [2007/03/25] - YouTube

 マック赤坂の秘書・櫻井武(ハローワークで「ロールスロイスの運転手、時給四千円」という募集を見て応募し、結局面接で時給は三千円に、その後、二千円にまで引き下げられたらしい)の家族が、18トリソミー(先日観た、豪田トモ監督「うまれる」にも、その障害を持った子どもをもつ夫婦が登場していた)の娘を見舞う、聖マリアンナ医科大病院のベンチのシーンがとても良かった。
 強風に舞う落ち葉のなか、櫻井の八才の息子は、マック赤坂を「きもい」と一刀両断する。櫻井は「そうだよなぁ、きもいよなぁ」と笑う。
 そして、前述の秋葉原のシーンでは、マック赤坂の息子・戸並健太郎(マック赤坂の本名は、戸並誠というらしい)が、父親の相次ぐ立候補には、一定の距離を保ちながらも、聴衆から父へのあまりの罵声、怒号に対し、声を荒げる(なぜか関西弁で)。「お前が、あそこ(街宣車)、立って喋ってみろや!」と。
 この作品は、先日の参院選投票日(七月二十一日)の二日前に同じ映画館で観た、想田和弘監督「選挙2」と同様、選挙の話でも、政治の話でもなく、家族の物語、いや、二才の息子をもつぼくが敏感なだけなのかもしれないが、「父子の物語」と言ってもいい。
 ぼくは、「選挙2」の感想として、観終えた直後、このような感想をfacebookに書いている。

 一四九分という長さを感じさせない作品。
 二〇一一年四月という、震災・原発事故から一ヶ月の川崎市宮前区を舞台にした、家族の物語だというふうにぼくは観た。
 車に同乗し、助手席から、「山さん」こと、山内和彦さんの横顔を、早口とともに映し出していて、その車窓から見える“電線”が、とても印象的だった。
 そこに流れる電力の供給源…。
 三才の「ゆうくん」という息子を撮るカメラの視線がとても良かった。
 投票日二日前(まさに今回の参院選でいえば今日!)の夜、郵便局で選挙ハガキを書いている父と母のそばで、必死に退屈を訴えながらも、切迫した親の何かを感じとっている彼の姿は、ぼくの我が子(二才)と同じ。
 山さん(ぼくも、そう呼ばれることがある)、主夫、一児の子持ち、脱原発、妻はしっかり者…、共通項の多い、被写体に親近感を覚えながら。
 明後日の投票日前に観れて良かった。

 その他の府知事選候補者でいえば、中村勝(当時・六十才)の父子(八才くらいのひとり娘)家庭エピソードも、ほんとに泣けた。
 娘が「前(堺市区議選)はお父さんに五五〇票しか入らへんかったから、今度は一万票ぐらい入ったらいいな」とポロリと言うシーン。


マック赤坂・政見放送(2011年・大阪府知事選挙) - YouTube

 あと、この作品は、撮影担当の木野内哲也の功績が大きいだろう。彼の切り取るオオサカは、ぼくの見ているいつもの大阪ではなかった。想田和弘監督「選挙2」が、監督自身のブレブレの手持ちカメラでの映像だったのに対し、本作の映像は、やはり違う。どちらが良いとか悪いではない。それは、作り手と被写体の距離や、作り手のセンスの問題だ。

 『負ケルトワカッテ、ナゼ戦ウ。』このメッセージの意味は重い。
 他者を排除するミンシュシュギ、多数決だけのミンシュシュギは、やはり、もう、そろそろ、見直す時期だと思う。


映画「立候補」CANDIDATES THE MOVIE TRAILER - YouTube

映画「立候補」CANDIDATES THE MOVIE TRAILER - YouTube