〒カワチ日手紙〒- 外 -

「あえて」以降の、生きる仕方の試みの記録。「父」像、「家族」像への試み。文中に出てくるCは妻で、五部林は息子です。

本を通して、社会を発酵させる試み

 今週の月曜日(二十九日)のこと。
 五部林を保育所にいつもより早く迎えに行き、新大阪駅に入線する「ドクターイエロー」を見に行った帰り、淀屋橋駅近くのミスタードーナツで五部林に夕食を食べさせ、バタバタと忙しいなかではあったけれど、どうしても参加したいイベントであったので、五部林とともに、大阪府立中之島図書館で開催された「蔵書0冊からはじめる私設図書館、まちライブラリーの挑戦」に参加しました。
 まず、当日(きょう)の朝に、「子連れでも大丈夫ですか?」と中之島図書館に問い合わせ、それを快諾してくださった、講師の礒井純充さん、中之島図書館の方々、そして、参加者のみなさんにお礼と非礼をお詫びしたい。ありがとうございました。せっかくの礒井さんのお話の途中、出たり入ったりさせていただいたこと、さらに、五部林が大声を上げたり、と、大変申し訳ありませんでした。

 礒井さんの自己紹介の後、さっそく「まちライブラリー」を体験しました。
 参加者は、各自、紹介したい本を一冊持ってくるように言われていたため、持参した本を片手に、近くに座っていた数人どうしが、本の紹介をしながら自己紹介をする、という試みです。
 ぼくのそばに座っていた方のうち、最初に紹介をしていただいた男性は、村山斉『
宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)』を持って来ておられ、「まったく専門分野ではないのだが、宇宙の話は大変おもしろい」とおすすめしてくれた。新書のカバーにはブックオフのシール。ブックオフにはよく通われているとのこと。
 次の男性は、加納朋子ささらさや (幻冬舎文庫)』。ミステリーをよく読まれているそうで「加納朋子の作品が好き」と。
 次は、ぼくの番で、ぼくは、息子が大好きな、間瀬なおかた『でんしゃでいこうでんしゃでかえろう』(ひさかたチャイルド)と『本屋図鑑』(夏葉社)を持って行っており、横に座っている息子がまさに『でんしゃでいこう~』のページを左に右にめくっていたので、「この本は、どちらからでも読めるようになっているおもしろい本なんですよ。息子のいちばんのお気に入りの本です」と紹介し、さらに、先日(七月十九日)刊行イベント@隆祥館書店にも行った『本屋図鑑』を手にして、「図書館と同じく、町の本屋さんも、今は危機的な状況にあり、それでも、全国津々浦々の小さな本屋さんが地域のなかで必要とされている姿がとてもよくわかる本です」と続けました。
 最後に、お話ししてくださったTさんは、なんと、自分でお書きになった本を持参されており、びっくり。それは、山京東伝『丹醸銘酒剱菱への旅 (交響誌「旅シリーズ」)』という作品。日本酒「剣菱」に魅せられたTさんは、味はもとより、その歴史まで調べられ、一冊の本にまでされたそうです。息子が、Tさんの話をTさんの目を見ながらじっと耳を傾けていたことが、とても印象的でした。
 他のグループからも、とても楽しそうな会話が聞こえていました。

 それから、礒井さんは、「どうでしたか? 例えば、こういう場所で、急に隣にいる女性に『趣味はなんですか?』と聞いたりすると、それだけでもうセクハラだと言われるような時代ですが、本を媒介にすると、そこから知らない人といろいろな話を始めることができるでしょう」というお話。
 その後、礒井さんが「まち塾@まちライブラリー」を始めるに至った経緯を、礒井さんの歩んで来た道、出会った人々など、パワーポイントを使ってお話された*1
 礒井さんは、五十二才のとき、二十六才の友廣裕一さんに「弟子入り」する。ここでは詳細は書かないけれど、当時、礒井さんが主催されていた「普段は、成功を勝ち誇った人たちが自慢話を披露する」「勉強会」@六本木ヒルズの中の教室で、友廣さんの話を聞いたとき、すでに礒井さんには「まちライブラリー」の構想はあったものの、うまく事業が運ぶための打算ばかりを頭のなかだけで考え、実際には何も動けていなかった、相手よりじぶんの立場ばかりを考えていたときに、「なんの戦略もなく」全国の限界集落を旅し続けていた友廣さんに出会い、衝撃を受け、そして「弟子入り」を決意されたらしい。

(残念ながら、その辺りから、息子が少しずつグズり始め、トイレにも行きたがったので、会場を出たり入ったり、いっしょに電車[会場に来る前、新大阪駅で買ったばかりの「ドクターイエロー」のおもちゃ]で遊んだり、会場内をグルグル追いかけ回したりしていたので、礒井さんのお話をしっかりと聞くことはできなかったのですが、このページにあるような、実際に、今、すでにある「小さな図書館(マイクロ・ライブラリー)」の紹介をされていたように思います。)

 その後、参加者との質疑応答の時間になり、さきほどのTさんが「目に見える、顔の見える関係、そのなかでの事業が大切だという主旨には、ものすごく賛同できる、けれど、この、まちライブラリーも、うまく発展し、大きくなれば、結局、目に見えない、顔の見えない事業になってしまうのではないだろうか? また、そもそも『本を介して出会う』と言われるが、その本自体が、今、ベストセラーばかりが書店に並び、その内容・質が落ちているのではないか?」というような内容を質問された。

 礒井さんは「その通りですが、まちライブラリーは、ぼくひとりがやっている試みではなく、きょう、紹介したように、それぞれの方がそれぞれの方法でやることが大切なので、この試みが『大きくなる』というのは、これまでの企業や事業のようなかたちではないと思います。また、たしかに、最近の出版状況には、問題がある部分も多いですが、例えば、今、ぼくが手に持っている『新潟生まれの大阪育ち』という部数4冊の本があります。これは、著者を知っているぼくとしては、とても感動できる本です。…というように、これからは、本、というかたちも目に見える、顔の見える関係のなかで育つものとして現れるのではないかと思っています。人間は、何かを思うと、誰かに伝えたくなるものなんです、そういうなかでこの社会は成り立っていると思います」と答えられた。

 次に、ぼくが「ぼくも、本を介して、地域のなかでなにか試みをやってみようと思っているのですが、ぼくが今始めたいと思っている本屋さんと、まちライブラリーのような図書館、それに貸本屋という形態もあります。同じ『本を介して』する試みのなかでも、かたちが違う試みで、礒井さんはなぜ図書館というかたちを選ばれたのか? さらにはその違いはどのようなものだと思いますか?」という質問をさせていただいたところ、礒井さんからは「どれも、違いはないと思います。どのようなかたちでもいいのではないか、お金が絡むか絡まないかというところはありますが、それぞれで生まれるものがあるように思います。がんばってください」ということばをいただいた。

 それから、山口県から(!)来られていた図書館に勤める男性は、図書館の集客率についての質問をされていたのですが、それに対して、礒井さんは「何か事業やイベントをやるときに、『人を多く集めなきゃいけないという幻想』が、ぼくたちのなかには根強くあります。でも、ほんとうは一対一の関係の方が、よほど深い話ができる。分母は小さい方がいいんです。大阪に『2畳大学』というものをやっている人がいますが、まさにそれです」と答えられていた。

 最後に、礒井さんは、まちライブラリーとは「本を通して、社会を発酵させる試み」だと言われていた。
 「大きな鍋(社会)に火を炊いてお湯を沸かそうとしても大変だが、その鍋に発酵を促すような菌、すなわち本を入れてやると、あとは勝手にそれが大きな鍋のなかを変えてゆく、それにはそんなに大きなエネルギーは必要ないんです」と。

 ぼくが、五部林がグズるなか(それは、もちろん五部林が悪いのではありません。一時間半もの講演会に連れて来たぼくが悪いのです。二才の五部林が1時間半もじっとしていられるわけがありません)、「まちライブラリー」を体験し、さらに礒井さんのお話を、途切れ途切れのなかでも聞いたなかで印象に残ったのは、

・「なんの戦略もない」という方法
・「人を多く集めなきゃいけない」という考えは「幻想」
・分母は小さい方がいい

 …という点。

 何か、新しいことを始めようとすると、当然だけれど「うまくいくこと」に向けての「打算」ばかりが、いつの間にか前面に出てくるようになってしまう。
 ぼくが、これから「本を介して」やろうとしている、やりたいと思っている何かは、別にこれで大もうけしよう、とか、社会に大きく貢献しよう、有名人になりたいとか、そういうものでは決してありません。ぼくは、自転車で行き来できる距離の地域に住む人々と、そのぼくらが生活するこの地域について、考え、希望を持ち、そこで息子、家族、他の子どもたち・大人たちが楽しく育てるようにしたい、それだけです。
 もちろん、もし、生きる糧(現金をもらうための)商売にするなら、こんな「甘っちょろい」考えでは、ダメでしょうけど、でも、何もしないよりは、したいことをした方がいいとぼく自身は思ってます。

 本が好きだから、というか、ぼくには、誰か知らない人と話をする話題が「本しかない」から、それで、何かをやりたい、やれるのはこれしかないのだとぼくが思っている、ということを、改めて思い返させてくれた時間でした。
 そして、その時間に、他の参加者の方にはとても迷惑をかけたのですが、息子が、ぼくの横にいてくれたことを、とても、何か、素晴らしいことのように思います。夜遅くまで連れ回した息子にも、きょうはすごく迷惑をかけたのですが、やっぱりいっしょに参加して良かった、そんなふうに思いました。
 これから、大阪発祥である「まちライブラリー」について、ぼく自身、もっと知りたいし、活動に参加していければと思います。

・まち塾@まちライブラリー
http://www.mori-m-foundation.or.jp/machi/

・ISまちライブラリー
http://is-library.jp/

・まちライブラリー@大阪府立大学
http://opu.is-library.jp/

*1:http://www.mori-m-foundation.or.jp/machi/pdf/tsurezure_20120209.pdf